E30 M3 Sport Evolution(排気量/2.5L)

10セット限定販売


10台分のみ限定生産致しました。専用ウッドボックスで厳重にパッキングしてお届けいたします。

BMW Motorsportの“M"の称号、BMWオーナーにとっては憧れでもあり、大きなステイタスでもある。
今回は、E30 M3パワーユニットに27MotorSports特注MAHLE製ピストンを使ったO/Hを紹介します。


BMW E30 M3とSportEvolution


1983~1994間に生産されたE30、その中でもM3は1985~1990までの間に製造される。
当初は2.3Lで生産され、ヘッド周りの改良を加えられたEvolutionやEvolution2を経て、SportEvolution(2.5L)が1989~1990の2年間で限定600台のみ生産された。
日本への輸入は200台程度とのうわさを聞くが、正規輸入対象ではないので(平行輸入)確実な数字は不明の様である。

SportEvolution(2.5L)は当時のツーリングカー用ホモロゲ取得のために製造された、スペシャル中のスペシャル。
ライバルがメルセデス190E 2.5L Evolution2は有名な話である。
ちなみにこの190E 2.5L Evolution2を当社元メカは、平素通勤に使っていた。(呆れ)
夜中に飲み屋のオネーチャン達を乗せていたのを、何度か目撃した。(馬鹿ヤローである)

MAHLE製特注ピストン

27MotorSports社は、MahleMotorSportsの日本総代理店を努める。
日頃から、国産車をはじめ数々のMAHLE製ピストンを全国のチューナー達にお届けしている会社であるが、一方で設計やカスタムオーダーも受けている。
今回のE30 M3 SE用カスタムピストンに着手した理由は、オールディンの復活である。
言葉を換えれば、ノスタルジック。 最新のPORSCHE・FerrariにもMAHLEは使われているが、伝統のMAHLEを今に蘇らせることも大事な仕事である。
古き良き時代の欧州エンジンを現代のMAHLE鍛造品で対処する、贅沢な企画と言える。

さて、SEの純正ピストン。

素材は鋳造。ピン裏にアンカーと呼ばれる鋳込みのウエイトまで施され、重い。
その重量は実に480gにも及び、しかもその純正価格たるや驚愕の金額になる。
SEが元来レーシング用に開発された経緯を考えれば、随所に見られる軽量化や、高級素材、頑固な設計、あるいは徹底した割り切りなど、エンジニアの魂が匂うエンジンでもある。
然るに、ファンの間では、この高級純正ピストンがよもや普通の鋳造ピストンだと知らずにおられる方々も少なくなく、またこの重いピストンは振動・バランスを考えた意味のある存在と崇める風潮すらあるようである。
4気筒ストレートエンジンには各2気筒(#1#4/#2#3)が180度の位相グループに区分され、ピストンやロッドの軽量化が効果を発揮するのが一般的である。
V型エンジンと直4エンジンでの軽量化は異なるアプローチが必要なのである。
今回ロッドは純正品を再使用したが、できればこのロッドも軽量品を使いたいぐらいである。
M3 SEも一般的4気筒同様で、ピストンの軽量化は確実に軽快なレスポンスを生み出す。

MAHLEピストンの特徴


ツーリングカーレース用のオリジナルピストンは圧縮比12を超えるハイコンプ。
しかし、今回の27MotorSprts特注は、オリジナルコンディションに拘るオーナーたちの思いを代弁する意味で、純正と殆ど同じディメンションを採った。

ボア径95.50mm(純正94.80mm)
リセス位置純正同寸
対応バルブ純正+1mm
リセス深さ純正+1mm
重量376g(純正 480g)
ピン22mm (純正同寸)
リング幅1st 1.2mm 2nd 1.2mm Oil 2.8mm
圧縮比10.5(純正10.2)
ピストンボリューム -13cc(凹)

ボアはほんのわずかなOSとし、基本的なOHに最適なレベルにとどめた
リセスは、1mmOSのバルブ径・1mmOSのハイリフトカムに対応する設計だ。1mmの許容はサージングも意識している。
リセスが僅かに大きくなってはいるが、圧縮比はほぼ変更なし。ECU制御も純正ROMで安心して使える設計である。

国産エンジンでもリング幅1.5mmが採用される中、1.2mm・1.2mm・2.8mmの薄型リング、独特のスリッパースカート形状、さらにはスカート部のグラファルコートでフリクション低減&スラップ音の低減、軽量によるレスポンスアップと細部に拘る設計である。

MAHLEによるMAHLEピストン

ここで、敢えて述べるのあれば、MAHLEによるMAHLE製ピストン。
純正M3 SEもMAHLE製ピストン、今回はその純正図面を元に新たにMAHLEで新設計されたピストンなのである。

だからこそ、確かな詳細設定の元、信頼性が高く、安定した性能であり、またSEのオリジナル性に逸脱せずに、且つブランド力を落とすことなく使って頂けるピストンと考える。
発売当時の新車価格が1000万円を越える世界的希少車。
大事なパワーユニットにモアパワーも大事な事であるが、はたして流用加工ピストンなどでオーナーの満足を引き出すことが果たしてできるか、全く疑問である。
国産流用ピストンのもたらす意味合いが理解できない。

今回の27MotorSportsのコンセプトはオリジナルティ。
オリジナル性を損なうことなく、現代の鍛造MAHLEでのOHに意味を見出す。

DLCコーティング


その他に、E30 M3 Sport Evolution ピストン・ピンにはDCLコーティングが施される。
DCLとは、DIAMOND LIKE CARBON の意味で、ダイアモンドの様に硬いカーボン皮膜と意訳できる。
非常に硬い且つ薄い皮膜を形成し、摺動抵抗を大幅に低減することを目的としている。
ナノレベルでの皮膜厚なので、クリアランス交差にも殆ど影響が出ることはない。また、一般的に驚異的な皮膜硬度が謳われていますが、窒化処理に比べ数倍の硬度を持ち、且つ摩擦を大幅に低減させるDLCコーティングはここ数年において工業界で注目を浴びている技術です。
既に業界では様々なエンジン部位にDLCコーティングが試されているが、当社ではこのE30 M3 Sport Evolutionのピンに先駆けて採用となった。

エンジンの脱着

当社では、エンジンの脱着は極力エンジンスタンドを使う。

大事な車体やエンジンを不用意に傷めたりすることが無く、安全に作業ができる。
降ろされたエンジンとミッションASSY。 メーカーが車輌を組む手順と反対の方法と言えば分かりやすい。 つまり、効率的なわけである。

分解時の内部


20年以上も経過している車なので、内部はそれなりのコンディションである事は当然。
オーナーもわが子の様に労わり、まめにオイル交換をしていたはずである。
しかし、実際はスラッジもたまり、ヤレはある。

ピストントップランドには巣穴上のダメージが見られる。
燃調が合っていなかったせいなのか?と思わせる一瞬である。
ブローも間近だったかも知れない。

サラブレッドである、M3-SEをサーキットでエンジョイするも良し。
但し、ジワリとこの様なダメージが迫っていることも充分覚悟することも大事である。

Sport Evolutionの特徴

2.3Lに比べ、幾つもの変更点が見られる。
カムシャフト・バルブ・ピストン・クランク・メタルベアリング・オイルポンプなど、中身は全く別物の専用設計である。

  1. カムシャフト
    Evolutionからの専用カムは、IN・EX共にカムシャフトに刻まれた切り欠きがセット用のアイマークになる。

    微妙にずれるEX側を見て、分解前にバルブタイミングを測定しておく。

    1mmリフトでの計測であるが、どちらも作用角248度程度、中心角は100度前後となる。
    国産カムではブルブルとした不安定なアイドルを嫌い、作用角を抑えもう少し遅らせたタイミングが一般的で、具体的には110度前後としオーバーラップはもっと少ない傾向。しかし、M3は流石にレーシングエンジン。

    攻めた仕様で、中低速のトルクを重視した仕様に見受けられる。 ポケットやサージングとの攻め合いも出てくるが、一般市場に4連スロットルでのハイカムエンジンで、ここまで攻めるのは見事な割り切りであり、大変魅力的である。
  2. バルブガイド
    バルブガイドの純正品設定はない。
    ガイドにガタがあれば、ヘッドASSYでの交換をメーカーは示唆しているのである。
    古いマニュアルを紐解けば、バルブをガイド中途まで差込み、傘の部分での振れをダイアルゲージで測定とある。・・無茶である。
    判定に一貫性がなく、曖昧な整備に終わる。全く単純な話で、バルブステム外径とガイドの内径を計れば済む事である。
    今回はEXのみガイドを特注し、交換。

    EX側のガイド磨耗は著しい程に進行していた。
    材質はリン青銅を使い、ガイドの外形寸法も純正品と全く同一にした。
    通常は純正オリジナルより僅かに太い外寸とし、交換時のガタを食い止める意図がある。
    しかし、腕の良い職人は無茶な殴打でのガイド交換などをせずに、熱膨張を利用した極めて無理のない方法でガイド交換を行う。
    だからこそ、ガイドの交換時歪みを最小限度で抑えることができるのである。
  3. リフェースとシートカット
    純正バルブはナトリウムが注入された高価なもので、コスト削減には再使用が望ましい。
    歪んだバルブは勿論論外だが、ガイドさえ確実な状態にすれば、リフェースで何とか性能を保てる。

    問題はシートカット。
    ここも職人の技術。
    ガイドの芯出しを高精度で行い、最低限度のシートカットを行う。

    結果的にシム交換は避けられないが、僅かなサイズ変更で済む。つまりは純正基準内のシムサイズで賄えることになる。
    何度も繰り返すが、燃焼室やポート周りのピカピカ仕上げで騙されるユーザーが多い中、ガイドやバルブの精度をあげて、正確なシート合わせを行うことの方が遥かに重要であることを伝えておきます。
  4. バルブスプリング

    ダブル構造とし、高回転対応になっている。
    特に垂直度が崩れているわけでもなく、再使用とした。
    純正バルブが重くダブルスプリングも頷けるが、軽量バルブを使えば、使用回転域によってはシングルバルブで対応したい位である。
    単純な線形で、古臭い設計であるが当時のレーシングの雰囲気は伝わってくる。
    バルブコッターは溝が3箇所あり、サージングへの配慮が見受けられる。重いバルブにダブルスプリングでの対応に更に保険をかけた感じである。
  5. シムプレート
    シムは概ね3.65mm~3.75mm辺りのサイズが装着されている様子だが、シートカットなどを行えば、当然もっと薄いシム厚が必要になる。
    純正設定こそ、3.35mm辺りから設定があるようだが、日本国内のディストリビューターには殆ど在庫管理されておらず、ドイツ本国からの取り寄せで、またまた部品待ちの期間が発生する。
    今回は、慎重な測定を繰り返し行い、必要シム厚を算出。
    純正シムを再研磨することで対応した。

    要求通りに仕上げられたシムは極めて美しく、信頼の於ける加工管理が期待できる。
    ここにも職人技が光る一瞬があり、良いエンジンに仕上がる基礎ができる。

    リフター側面も丁寧に磨きフリクションの軽減を図る。(左)
  6. ポート研磨
    燃焼室やポートは特に磨きを入れるようなことはしない。

    基本OHが目的であり、メーカーでかなりきっちりと仕上げられてる各部をさらに必死に磨き上げても、性能効果は殆どなく工賃ばかりが跳ね上がる結果になりかねない。
    磨いた画像は美しいが、ビジュアル重視でもエンジンは良くならないのである。
  7. ヘッド面研
    タイミングチェーンが採用されている場合は、通常ヘッド面研は難しい。フロントカバーとの兼ね合いが取れなくなるからだ
    しかし、今回のヘッドは、ヘッドボルト周辺に歪みが見受けられる。過大なトルクで締め上げるために、ヘッドに歪を発生させた様に見える。
    最小限度の修正面研を行った。

    左:面研前 右:修正面研後
  8. ヘッドボルト
    M10xP1.75のヘッドボルトが10本使われている。
    ところが、問題がある。ブロック側のネジしろを十分に使っていないのである。つまりはブロック上面近くに応力が集中し易く、ネジ穴周辺に盛り上がりやクラックなどのトラブルが出やすくなる。
    もっと、ブロックの全体を使う工法を取るべきで、ここは特注強化スタッドボルトを使うことにした。

    スタッドは、ブロック目一杯底奥からネジ応力を使うことができる。
    ヘッドガスケットへの締め付け応力もより均等化が図られ、またブロック歪みも一層抑えることができる。

    加えて、ネジ穴周辺の歪を最小限度に留め、安定した組み付けを可能とする。 2.3Lにしても同様で、スタッドボルトの併用は強く推奨する。

    ヘッドボルトは合計10本。
    マニュアルでは約10kgm程度のトルクを掛けることになっている。
    ところが、実際に置針式トルクレンチで加重を掛けて見ると、とてもそんな過大な数値には耐えられない事が分かる。
    マニュアルの前に、適宜にモノを考えることが大事。

  9. コネクティングロッド クランクシャフト

    予算の都合もあるし、オリジナリティに拘るオーナーの意向もあり、今回は純正ロッドを再使用。
    純正ロッドは非常に重く、まるでV側エンジンに使われるようなゴツい作りである。
    ターボ用のロッドでもこれほどにゴツいロッドは必要としないと思う。
    幸いな点は、概観よりもキャップボルト。
    ある程度のトルクに耐える伸びしろが残っており、再使用は問題ないと判断した。


    M3のクランクはお手本になるように美しい。本当に良くできている。バランスの取り方、剛性共にエンジニアがレースを想定して設計したのであろうと思う。
    無闇なバランス取りなどせずに、ここは丁寧に基本に帰る。 曲がり・振れを入念にチェック。 精度1/100mm以下を狙う。 ラッピングも丁寧に行う。

    クランクは、人間で言えば背骨。 真っ直ぐ綺麗な背骨がエンジンにも当然必要なのである。

    テールのパイロットベアリングも同時交換。

    オリジナルはかなりやれている。 圧入式なので、この様な単品での作業が効率的だ。
    初期オリジナルは、グリース溜まりを狙って、飛散防止にフェルトが入る。 現時点でBMWから正規購入しても、最近のベアリング形状となる。
    既にフェルトは不要なのであろうが、ここはマニュアル通りに組みつけておく。

  10. メタルベアリング
    メタルベアリングはエンジンビルディングでは大変重要なポイント。
    2.5Lと2.3Lでは同じサイズながら構造が異なる。

    特にメインベアリングでは、ブロック側にグルービングが施され、絶えずメタル背面にオイルが供給されている形状を採る。
    メタル中央の複数穴(オイルホール)からジャーナルに対し万遍なくオイルが供給されている。2.5L用はこのメタルのオイルホール数が多くなっている。

    材質的な面は、資料がなく不明であるが、高回転に対する配慮が2.5Lにはされているわけである。
    メインジャーナルにオイルが供給されている→メインジャーナルのオリフィスにオイルが入り込む→コンロッド大端部メタルにオイル供給
    この順所でピンメタルまで潤滑される。高回転化におけるオイル潤滑は油圧や2.5Lに見られるようなメタルの工夫で補われる。
    クランクジャーナル部における遠心力に打ち勝ち、確実なオイル供給を図る必要がある。
    実際、分解時のメインメタルには表層剥離も見られた。分解の走行距離も14万キロを越えることもあり、 このメタルの損傷が限界を超えたドライブによるものなのか、長期間に渡る経年劣化によるものなのか、 ここでは判断ができない。随所に工夫が見られるエンジンではあるが、 オーナーとしては使い方によってはこのようなメタルトラブルも十分ありえるものと理解頂きたい。
  11. M3 SE用オイルポンプは既に生産終了になっている。大問題である。
    2.3L用が流用できる構造ではあるが、BMWとしては推奨しないとのコメントがあった。
    もう少し検証が必要であるが、ここはASSY交換をせずに分解OHで対処することとした。

    インナーパーツは交換せずに、マイクロショットを施しギヤの摩耗痕をなだらかに制限し、且つ潤滑性能を上げる工夫をした。
    手で回すだけでも、スルスルとした感覚が得られる。
    幾つもの摩耗痕が物語る様に、オイルポンプはオイル潤滑をしながら、オイル潤滑をされている部位であり、常にタップリとしたオイルで満たされているが、実際は厳しい条件下で稼動している。

    このような痕跡が見受けられるのは、振動や高回転化により金属同士で擦れ合う現象が起きていることになる。
    言い換えれば、インナーやアウターギヤは互いに馴染みのある存在になっているわけで、これにさらにショットを打ち表面にミクロの凹凸を形成し、フリクションの軽減やオイル保有向上を狙う。
    組み付け時には、単純にオイルを塗布するのでなくペーストも使っておく。

    最初の始動時に手工具でクランクを回し、その後クランキングで再度オイル供給を図る。この時点で如何に素早くポンプによるオイル潤滑が行われるのかが、大きなポイントになる。

    M3のオイルパンは2分割式。内部にバッフル(パーティション)が組み込まれ、オイルの偏りを防ぐ工夫もされている。
    容量はタップリあるが、エンジンが傾斜マウントされる為に、エンジンのガスケット継ぎ目からは、オイル漏れが発生営することは覚悟の上。
    しかし、大きなパンである。
  12. オイルポンプリリーフバルブ
    回転上昇と共に油圧も上昇する。一定の圧力以上に油圧が上昇しないようにリリーフ弁が取り付けられている。

    弁の先端は丸味を帯びたラウンド形状になっており、多少弁自体が斜めに傾いても球体の一部が面当たりするように、弁を閉じる構造になっているが、実際は本当に安定しているのかは、疑問である。
    と言うのも、リリーフ弁が偏当たりをして、油圧が掛からずエンジンブローしたE30が結構あるという情報を得たからである。
    国産ポンプであれば、ポンプ本体にギャラリーを設け、筒状の中にピストン構造とした弁が一般的で、ピストンの様にストロークをする。
    安定したピストンストロークは、結果的に安定した油圧管理ができる。
    ところが、BMWの場合、同じポイントで当たりが付いている弁が何かの拍子に傾けば、偏当たりとなり隙間が発生する。極めて最悪な状況に陥ることになる。
    誠に些細なポイントがエンジンブローに繋がるのか否かの局面を作り出ししまう。

    リリーフ弁の先端は、丁寧に#2000程度の細かなペーパーで洗いながら修正を行い、当たり面の修正を行った。
    ダブルスプリングは、この些細なトラブルがBMW内で頻繁に報告されて、改良された点であろうと推測する。
  13. トルク管理
    エンジン組み立ての際に、各部のボルト&ナットはトルクで管理されるのは当然のことであるが、ここでいくつかのポイントがある。
    一つはトルクレンチ。プリセット型の工具はエンジン組み立てには適さない。
    目標トルクをセットし、カチンと音がするまでギュッと締め上げるのは、まったくトルクの管理がされていない。
    もっとも適しているのは置き針式である。トルクを掛けながら、針を見ているとボルトの性能・言いかえれば悲鳴が聞こえる。
    メーカーでは10kgmfと指示があっても、8kgmでそれ以上トルクが掛けられない・・と言う局面は幾つもある。
    ボルトの許容を超える過大なトルクは掛けられないわけである。 これが、プリセット型を使うと勢い良く10kgmまでカチンと飛び込むネジの締め付けを行ってしまう。 許容を超え、あるいはヘッドやブロックに歪みを与え、無理な組み立てを行っているエンジンになってしまう。
    たとえそれがBMWのマニュアルでそうであっても、自分なりに考え、判断することが大切であり無理なことはしない様に心がけることが大事だと思う。
    分解時にヘッドやブロックの歪みを見る。

    鋳鉄ブロックと言えども、歪みは発生する。ヘッドボルト周辺のウォータージャケットはかなり近い。
    また、箇所によっては3方にジャケットが存在する。強烈なボルト締め付けは、クラックの原因にもなりかねない。

    ジャケット淵に軽くリューターで面を取っておく。こんな細かな作業がクラックを未然に防ぐことになる場合もある。
    ただ歪んでいることだけを確認するのではなく、どこの部分は歪んでいるのか、あるいは何故そうなったのか、と推理をする。管理とは、常にそうあるべきで、メーカーマニュアルはその参考書程度に考える。
  14. エンジンインプレッション
    始動したエンジンは静かに、安定してアイドルを続ける。バルタイ100度はアイドルには少し辛い中心角と思いきや、これだけ安定していれば十分な性能と言える。

    今回はバルブクリアランスを若干狭目に設定した。 純正カムの詳細プロフィールまでは分からないので、エンジン始動時の打音を意識していた結果である。

  15. 最後の要とも言えるECU制御が大変重要。 得体の知れないチューニングROMが市場で出回っている様であるが、この車両にも同様にチューニングROMが装着されていた。しかし、測定をするとかなりA/Fが薄く、危険な領域も見られる。ピストンやバルブには各部に希薄燃焼の痕跡が見られる。

    マッチしていないROMで乗り回すことは大変危険であり、重大なダメージをエンジンに与えかねない。

    ROMはセッティングを繰り返し作り上げられたはず。これが基本。
    であればしっかりしたデーターが添付されていない口コミROMは大いに慎むべきである。